意識以前の心
ここどこかしらない でもぼくいる
いまいつかしらない でもぼくいる
ぼくだれかしらない でもぼくいる
はななまえしらない でもきれい
さかななまえしらない でもたべる
こころははらっぱ こころはうみ
だけどこころはだんだんまちになる
ことばのみち ことばのたてもの
そのしたのマグマをみんなわすれる
ことばだらけのこころになって
これは、元保育士のおもちゃ作家、杉山亮著「子どものことを子どもにきく」(岩波書店)の背表紙にある、谷川俊太郎の詩である。
この本は著者の息子、隆くんが3歳から10歳までの八年間、毎年行ったインタビュー記録をまとめたもので、今、子どものいる人、そして昔、子どもだった人にも勧めたい本だ。
昔、日本では「三歳までは神の内」などといって、小さな子どもはまだ人間界にちゃんと根付いておらず、生まれる前にいた(とされる)神の領域に近い存在とされていた。
この本の「1、三歳の隆さん、神を語る」では、隆くんもその片鱗を感じさせる破壊力でインタビューに応じている。
今何時なのかも、ここが何という場所なのかも、わからない。字も読めない。それでも隆くんはふつうにニコニコしている。
「大人ならパニックだろう」とインタビュアーの父は言い、そういうことは一番大事なことではないらしい、と述べている。
この中で隆くんは、「夜、寝る前にお父さんがおはなしをして、隣の部屋に行った後、何やってるの?」と質問される。
最初、「んー、ご本読んでる」など下手なうそをつくのだが、「真っ暗なのにうそだー」と突っ込まれた後、なんと隆くんは「神様に体操を教わっている」と答える。
しかもふとんの中で、考え事も神様に教わっていて、教わった体操は起きてからやるのだと言う。そして神様は百人いて、体操を相談して考えており、悪魔も百人いて、悪魔はリズムを考えていると言う。神様と悪魔は仲がいいようだ。
そしてインタビューの最後には、「お話しするより(神様と悪魔による)体操と考え事のほうがよかった」と述べている。
この本を最初に読んだのはもうずっと昔、まだ整体を始める前で、子どもの本とヨーロッパのおもちゃの店で働いているころだった。その時は、自分も幼稚園の頃、一人でめちゃくちゃ体操をやっていたことを思い出した。
子どもの時は、そんなふうにして自分の調整をするのが普通なのだろう。寝相も激しいし。
それにしても隆くんの発言は、活元運動に重なる。いや、整体指導もそうかもしれない。神様が体操を考え、悪魔がリズムを作っている!もしかすると神様は神経系で、悪魔は骨格筋?
整体を始めてからも、何度かこの本は読んだ。そして冒頭の詩を読んでは「意識以前の心を詩にすると、こうなるのかな…」と思った。整体の先生にも読んでもらったことがある。
この詩の最後に、「そのしたのマグマをみんなわすれる ことばだらけのこころになって」というところがある。この本の中でも、8歳ともなると、隆くんはかなりお父さんと対話ができるようになるが、3歳のきらめきと破壊力は影をひそめている。そこで親子のインタビューも終わる。
整体をやるということは、大人が「そのしたのマグマ」を思い出すことなのだと思う。