アルダブラゾウガメ玄の生活 ― 気は心と体をつなぐもの

整体生活・野口整体と生きることをひとつに

健康生活の原理

 活元会に参加している人から『健康生活の原理 活元運動のすすめ』についての問い合わせがあったので、会の前説でこの本についての話をした。

 活元運動とは何かについて述べた野口晴哉の著書は、一般書店で手に入る本では『整体入門』、全生社では『整体法の基礎』などがあるが、その中で最もお勧めの本である。

『健康生活の原理』は野口晴哉の死後すぐに出版された最後の著書だ。私の師匠は「野口先生の置き土産だ」と言っていた。ペーパーバックの小さな本で、今も廉価で販売されている。

 本文は「今まで人間は物として研究されてきました。そして意志で動いているという面が強く言われております。」という一文から始まる(物でない人間の営み)。私がこの本を初めて読んだのは20代の終わり頃だったが、冒頭からはっとするほどの強い衝撃を受けた。

 今回の活元会の前説では、野口晴哉は西洋医学が遺体の解剖を基礎にしていることを問題にしていたこと、私の師匠も医学生が人間の体を知る着手が遺体の解剖であることは、その後の身体観に深い影響を与えると言っていた…という話から始めた。それから整体操法を学び始めた当時、塾生の中に医師がいて、その人が実習で「頭蓋骨が動く」ということを知り、驚いていた…という話をした。

 この「頭蓋骨が動く」という単純なこと一つとっても、解剖実習や標本で見る頭蓋骨は生きていないのだから動くはずもなく、無機的なヘルメットにしか感じられないだろう。生きている身体に手で触れることで、初めて頭蓋骨は動くと実感し、分かることなのだ。

 活元会の後、焼きたての鯛焼きを食べながら当時の思い出にしばし浸った。私は本について話そうとしたら、活元運動云々よりもこういう話が自然と口から出て来たことに驚いていた。

 そういえばあの頃、先生と塾生の医師のやりとりはいつもスリリングで面白かったが、先生は整体の観方を学ぶ上での最初の問題を教えようとしていたんだな、と思った。懐かしいというより、当時の先生の言葉が自分の中にそのまま生きていることにも驚く。

 今は新型コロナウイルス感染症対策が医療の中心になっている。しかし、人間が健康に生きることを考えるには感染症対策とは全く違う観点が必要なのだ。『健康生活の原理』は活元運動の本として知られているが、人間が健康に生きる上で大切なことは何かを考える上でも非常に有益な本である。

 入手できる書店が限られていることもあって、『整体入門』などに比べると普及していないのだが、文庫になっている本よりもずっと読みやすいと思う。広くお勧めしたい一冊である。