アルダブラゾウガメ玄の生活 ― 気は心と体をつなぐもの

野口整体を探究・実践する「整体生活」について

「個」と全体の関係 1

 私は、ちょっとだけお手伝いをしていたフリースクールのご縁で、学習介助(普通学級に在籍している障害のある子どもに付いて、手助けをしたり個別の勉強を一緒にしたりする仕事)のアルバイトをしたことがある。ちょうど、整体の指導者となる道を歩むか否か決めようとしていた頃で、初めての仕事だったが、自分を試すためにやってみることにしたのだった。

 私の場合はお母さんの私費で仕事を受ける(一般には学校に雇われる)形で学習介助をすることになった。 子どもは小学校五年の男の子で、自閉症多動症、軽い知的障害があると聞いていた。

 フリースクールでお母さんとその子に初めて会った時、その子は私の手をいきなり取って握り、駆け出した。私はその子に手を引かれ、建物の中を駆け回りながら「この子なら大丈夫」と直感し、この子をもっと知りたいと思った。お母さんも私も意外な行動に驚いたけれど、こうして学習介助に臨むことになったのだった。

 最初のころ、私は教室から出てしまうその子を追いかけていたが、ある日からその子が私の膝の上に坐って、抱きついてくるようになった。休み時間だけではなく、その子の苦手な体育の時間の間中、抱きついて離れなかった時があって、担任の先生に「甘い」と注意を受けたこともある。

 しかしそういう時間は早々に終わり、その後、私とその子の間には「気のつながり」ができた。その子が私の気の範囲から出てどこかに行ってしまうことはなくなり、私が「カーテンを閉めよう」とふと思っただけで、その子がさっと閉めてくれたりするようになった。

 哺乳類の育児行動は、仔の発する「におい」によって促されると言われている。このにおいは種を超えた共通性がある程度あるようで、体の大きさが相当違う種間でも、相手が子どもかどうか判断できる。

 整体では腰椎四番に種族保存的な感受性と行動の中心があるとされており、同時に「におい」の敏・鈍にも関わっている。

 実際、私は何となくいらいらしたり、子どもに気が集まらないような時、その子の髪や体のにおいをかぐと、不思議と子どもに気が集まって、可愛く感じるようになるのが常だった。こういう点は人間も哺乳類ということなのだろう。

 しかしそういう密着した二人だけの時間というのも終わりがやってきた。今度はその子がクラスの子どもたちに関心を持つようになってきたのだ。少々からかわれても、子どもたちの中に入ろうとする。これは正常な成長の過程なのだけれども、素人の私は、正直、ちょっと寂しさを感じずにはいられなかった。

 そしてある時、音楽の授業(専任の先生が行う)で「リトミック」(先生が即興的にピアノを弾いてそれに合わせて子どもが自由に動く)をやる時があって、これまでそういうことに参加しなかったその子が、みんなが動いている中に入っていったのだった。

 ほかの子よりもぎこちないけれど、楽しそうに動いているその子を見ているうちに、言いようのない感動が起こるのを感じた。するとクラスの子ども一人一人が同時に輝いて見えてきた。私は学校の授業というものにこれほど感動したのはこの時が初めてだった。

 こんな地方の小学校で、こんなことが行われているとは信じがたいほどで、私は授業が終わった時、先生に「素晴らしかったです!」と言わずにはいられなかった。先生は「分かってくれてありがとう」とだけ言った。こんな出来事は、この時一度だけだったが、こういう先生が、誰に認められることもなく子どもの心を育てているのだと知った。